右手を軽く上げて「すみません」と声をかけると、若いおばあちゃんが注文を取りに来てくれた。


「はーい、なににするか決まった?」


「オムカレーとコーヒーをお願いします」


「わかりました。じゃあ、ちょっと待っててね」


 ひとり残されたわたしは、また店内をぼんやりと眺める。

 緊急時のために持参したスマホの電源は切ったままだし、こういうときは手持ち無沙汰だ。

 ふうっとため息をひとつ落とすと、店の奥から大きな声がこちらに近づいてきた。


「ほら、翔太(しょうた)! 早く準備してよ。あぁ、そっち行っちゃだめだって!」


 キッチンの奥からばたばたと出てきたのはさっきの男の子だ。

 続いてわたしと同年代くらいの女性が、男の子を追いかけるように出てくる。この子のお母さんだろうか? 艶やかで流れるような黒髪と清楚な顔立ちは、同性なのに見とれてしまうほど綺麗だ。


「すみません、この子はしゃいじゃって。ほら翔太、うるさくしてごめんなさいは?」

「いえ、おかまいなく。気にしなくていいよ、翔太くん」


 翔太くんはもう一度わたしを見るなり、澄んだ瞳を丸くして言った。


「おねえちゃん、もしかしてかなしいの?」