―― 二〇二〇年 七月二十日 月曜日 ――
高校生活にも慣れてきた一学期最後の日。終業式が終わり三階の音楽室へ向かっている途中、わたしは初めて怜を見かけた。
校門に向かう生徒達の流れの中、立ち止まって水泳部の練習を見つめていたのは、ジャージ姿で大きなスポーツバッグを肩から下げた黒髪短髪の男子生徒。その目は校舎の窓越しに見てもわかるほど真剣で、どこか悲壮な決意が込められているようにも見える。
少し不審に思って様子を伺っていると、プールサイドから結弦が現れ、いつもより険しい表情でフェンス越しに男子生徒と言葉を交わしていた。
それを見てわたしはただ結弦が友達と話していただけだったのかと安易に考えていたが、実は時永怜という名の彼はわたしが知らないだけで学校ではちょっとした有名人だった。陸上部ではインターハイも期待されているほどのスプリンター。けれど昔から水泳にも興味があり、それを知った結弦が怜に声をかけ、晴れて水泳部の一員になったと、後に結弦が話してくれた。
美輝と怜は陸上部で種目が同じだったことから元々仲がよかったらしく、怜が水泳部に転部したのをきっかけにふたりは付き合い始めた。
陸上から水泳に転向した怜には、叶えたい夢があったらしい。
ちゃんと聞いたことはないけれど、水泳に関わりがあることだといつか美輝が話してくれた。
それから徐々に四人全員が仲よくなっていくと、わたしは中学時代と打って変わって、とても楽しい学校生活を送ることができた。
それは間違いなく、切継結弦、巡里美輝、時永怜、この三人が彩ってくれた世界だった。