だけどなぜ、この子はわたしの名前を知っていたのだろう? 自分の席を探すためのクラス名簿はもらったけれど、同じ中学でもない限り顔と名前が一致するなんてありえないはずなのに。
でも、今はそんなことどうだっていい。
せっかく話しかけてくれたんだから、このチャンスを活かさないとぼっちの未来を変えられない。
『えっと、吹奏楽部に入ろうと思ってるの。わたしピアノ習ってて、ここハープやチェレスタもあるからやってみたくて。そのためにこの学校に来た、みたいなもので……』
……調子に乗って喋りすぎたかな? いきなり専門的な楽器の名前なんて聞かされたら、しらけるかもしれない。
『へえ、すごいね。ここの吹奏楽部ってそこらの運動部よりよっぽどきついんでしょ? テレビとかでも特集されてたりするし。度胸あるねー。あ、わたし巡里美輝! んーと……』
『あ、神谷琴音……です』
よかった、気にしてないみたい……。
『ですとかなにそれ? わたしら同い年じゃん。仲よくしようね、琴音っ!』
『う、うん。よろしく……美輝』
苗字は知られていたが、どうやら名前までは覚えられていなかったようだ。
二度目の呼びかけにいきなり名前呼びなんてさすがに一瞬戸惑ったが、なるべく対等に返してみせた。
名前で呼び合える仲にも密かに憧れていたから、実はちょっと嬉しい。
『またあとでね』と手の平を見せた美輝は、自分の席を探して去っていった。