バスは川に沿うようにして、山間の道をくねくねと器用に進んでいた。

 隣では結弦が頬杖をついて窓の外を眺めている。


「ねえ結弦、今さらだけど本当に大丈夫なの? お祖父さん達の迷惑にならない?」


 気になっていた疑問を、わたしは結弦に投げかけた。


「大丈夫だよ。旅館の手伝いだけじゃなく裏庭の草も刈らなきゃいけないし、俺達が来てくれてむしろ助かるって言ってるよ」


 結弦の柔らかな口調に少し安心はしたが、「ならいいんだけど……」と返したわたしは、結弦の彼女という立場上なんとなく胸に引っかかるものがある。

 わたしは心配性で優柔不断で煮え切らない性格だ。

 その上泣き虫だし思い込みも激しいし、こういうところは中学生から進歩していない。

 軽い自己嫌悪に苛まれていると、また美輝がひょいっと顔を出して言った。


「結弦もそう言ってくれてるし、わたしらもお手伝いするんだからいいんじゃない? 緊張しすぎだよ、琴音は」


 そう言われても、アルバイト経験皆無なわたしがお役に立てることなんてあるのだろうか?


「そんなに心配すんなよ。せっかくの旅行だろ? 夏祭りだってあるし楽しもうぜ」


 余裕たっぷりな怜の態度が羨ましい。

 入学当時は上級生や先生からも陸上で期待されていた怜。なのに高校一年の夏にあっさりと水泳部に転部してしまったくらいなんだから、これくらい怜にとってはどうってことないのだろう。

 でも確かに今さらうじうじしても仕方ないし、そもそも旅館のお手伝いなんて滅多にさせてもらえるものでもない。

 それならこれを機に女将気分をちょっぴり味わってみるのもいいかもしれない。

 ポジティブで都合のいい思考回路は、きっとこの三人からもらったものだ。

 ピアノの練習に明け暮れ常に重圧感と戦ってきた中学時代のわたしからは、想像もつかない。