「この雨に打たれたんですか?」
「はい。傘を忘れてしまって、雨やどりできる場所もなかったもので、こんな格好ですみません」
スーツ姿で突然来たこともあり、なにか勘繰られないかと心配しながら返答する。
「それはそれは、大変だったね。よかったらこれをどうぞ」
結弦のお父さんはそう言うとベッドの脇にある戸棚からタオルを出してくれて、風邪をひいてはいけないのでと、冷房を少し弱めてくれた。
結弦を挟むように向かいに座る。
病室に時を刻む音だけが、無機質に響く。
無言の緊張感。
なにか話さなくてはと考えるが、突然の出来事になにも浮かばない。
そのうちに向こうから「あの……」と声をかけられた。