顔を落として泣いていたわたし達は、ふと湖面に映る夜空の異変に気がついた。

 ふたりして泣くのをやめて、空を見上げる。


「な、なによこれ? 夜なのに……どうなってるの?」


 葵は辺りを見渡して困惑しているけれど、夜空を見上げてわたしは笑顔がこぼれていた。

 みんな、ありがとう……。

 灰色だったわたしの世界に、色が戻ってきたよ。

 わたしの長くて暗い夜が、今ようやく明けたんだ。

 夜空のキャンバスを彩っているのは、もちろん結弦と美輝と怜。そして、葵とわたしだ。

 みんなで作った虹の架け橋……。

 戸惑う葵に、わたしはそっと伝える。


「葵……これはね、夏祭りのときにみんなで作った夜空だよ。葵もリンネから渡されたでしょ?」


 笑顔で泣いているわたしを見て、葵はふっと目を細めて笑った。


「そう……。そうだったわね」


 葵と肩を並べて、夜空を見上げる。

 これはきっと、みんなの命の煌めきだ。

 これからもずっと見失わないように、失くさないように、わたし達は生きていく。


 たとえ違う世界にいても、この星空の下で、わたし達は繋がっている。

 だから、与えられた命を大切にして、毎日を生きていく。


 きっと誰もが、誰かに支えられて生きているから。

 きっと誰もが、どこかで誰かに必要とされているから。

 きっと誰もが、ひとりじゃないから……。

 それをみんなが、命を賭けて教えてくれた。


 葵が夜空を見上げて呟いた。 


「きれいなものね……。夜空に架かる虹なんて」


 わたしは、それに自信を持って答える。


「みんなで繋いだ、命の架け橋だよ」


 見上げた夜空には、わたし達を包み込むように七色の虹が架かっていた。

 遙さんが言っていた七色峡の伝説は、真実だったんだ。

 あれだけ恐ろしく感じていた七色狭へ架かる虹。

 湖が虹に包まれ、水面は七色に煌めいている。

 結弦はまるでその名のとおりに、弦を結ぶようにわたしの命を繋いでくれた。

 それならわたしも、繋がれた弦を弾いて、幸せな琴の音を奏でよう。

 幸せという七色の音を、命の限り奏で続けよう。

 もう、ひとりの夜も怖くない。

 闇だと思っていた夜空にも、七色の虹が架かったのだから。


 ――わたし達はそのまま夜が明けるまで、夜空に架かった虹を眺め続けた。