雨に紛れた涙がぽろぽろとこぼれ落ちる。

 水溜まりに映り込んだわたしの姿を激しい雨が歪めて、まるで今の醜い感情が映し出されているみたいだ。

 人も町もなにもかもが、雨と涙で水彩画のように滲んでいる。

 目の前のキャンバスには無数の雫だけが描かれていて、息が詰まる人混みも、今だけは見えない。

 大雨に打たれ、泣きながらふらふらと歩き続ける。気がつくと結弦が入院している病院の近くまで来ていた。

 スマホの電源を切り、そのまま病院へと足を向ける。

 結弦に会いたい。

 顔が見たい。

 この気持ちを今、結弦に聞いてほしい。

 やまない大雨の中、びしょ濡れのまま病院へ入り結弦の病室の前まで行くと、いつものようにノックをしてからスライドドアに手をかけた。


「はい」


 えっ? 今の返事……誰?


 聞き覚えがあるような男性の声に、スライドドアを開ける手がとまる。


「どうぞ?」


 声の主が中に入るよう促してくる。

 雨に濡れて冷えた体を強張らせて、ゆっくりとスライドドアを開けた。

 病室に足を踏み入れると、ベッドの脇に座っている男性に「こんにちは」と声をかけられた。