……そして、誰だかわからないけれど、懐かしさの中に愛おしさを感じる文字。


 意を決して、最後にその手紙の封を切った。




【琴音……。

 この手紙がちゃんと届くかどうか俺にはわからないけど、届くと信じて書き残します。

 きっと琴音は、この手紙を見つけても、誰からの手紙だろうって戸惑っているよね。

 この手紙を書いている俺は、もう存在していません。

 色々説明してもきっと琴音を悩ませるだけだと思うから、今の想いだけを記します。



 ――出会ってくれて、ありがとう。

 ――笑ってくれて、ありがとう。

 ――喜びをくれて、ありがとう。

 ――愛しさをくれて、ありがとう。

 ――勇気をくれて、ありがとう。

 ――涙をくれて、ありがとう。

 ――そして最後に、生きてくれてありがとう。


 もう琴音は悲しまないで。

 思い出せなくても、悔やんではいけないよ。

 琴音は誰よりも悲しんだんだから、次は誰よりも幸せになる番なんだ。

 だから、これからの日々を鮮やかに色づけて生きてね。

 琴音のそばには、きっと葵もいてくれるから。
 
 ふたりともありがとう。

 どうか、いつまでも幸せに……。  切継 結弦 】




「ゆづ、る……」


 ぽたぽたと落ちる涙が、手紙に染みを残していく。どうして忘れていたんだろう。わたしの大切な人。わたしを愛してくれた人。そしてわたしが、たったひとり愛した人。

 忘れないと誓ったのに。絶対また巡り会うその日のために……。

 ねえ結弦、わたしはもう大丈夫だよ。わたしは結弦にもらった命を大切にして、今度こそちゃんと生きてみせるよ。

 だから結弦も、わたしのもとに帰ってきてね。

 また会えたそのときに、わたしは笑顔であなたに言うよ。

 これまでにないとびきりの笑顔で、『結弦、おかえりなさい』……と。

 悔やむことはない。こうして思い出すことが出来たということは、結弦がまだ存在している証なのだから。

 手紙を読んだ葵も、思い出したように口を開く。


「なんで? 結弦は、存在を消されてしまったはずじゃ……。でも……ゆ、づる」


 葵もそれ以上言葉を紡ぐことができず、ふたりでその場にしゃがみ込んだ。


 わたし達は互いを慰め合うように、体を預けて泣き続けた。