――静かだ。
背中に感じる僅かなぬくもり。
うっすら目を開けると、見覚えのある女性が月の光を浴びながらわたしの顔を覗き込んでいた。
「……み、き?」
呻くように声を出す。
「……あたしよ」
美輝じゃない。
美輝よりも少し低くてどこか懐かしい声。
この声は、
「……あお、い」
七年の時を越えて再会した大切な親友は、そのまま静かに告げた。
「美輝ちゃんと怜くん、無事に送ることができたわ」
葵に預けていた体をゆっくりと起こす。
そうか、美輝も怜も、もういないんだね。
これでふたりは、あの繰り返す運命から解放されたんだね。
もうふたりには会えない。
でも、以前のような淋しさや悲しみはない。
寧ろようやく眠らせてあげられたことに安堵している。
「うん、送ってあげてくれて、ありがとう」
葵がいなかったら、わたしはまたここから飛び降りていたかもしれない。
葵のお陰で、わたしの大切な親友達を本来いるべき場所へと還すことができた。
「琴音、これからどうするの?」
……どうしようかな?
美輝と怜が繋いでくれたこの命。
わたしはこれからの人生を精一杯強く生きていくと決めたんだ。
「あ、あのさ、琴音」
「……なに? 葵」
葵は目を逸らして、少し頬を赤らめている。
いつも強気な態度の葵が、こんな顔するなんて珍しい。
「も、もし、家に帰るのがいやなんだったら、あ、あたしの家に住まわせてあげてもいいわよ」
「……え?」
「ほ、ほら、あたし達もう友達じゃない? 美輝ちゃんも怜くんもいなくなって淋しいだろうから、あたしがなんとかできないかなって……思って」
「ぷっ……あはははは!」
わたしなんかよりずっと大人だと思っていたのに、意外とツンデレな葵に思わず吹き出してしまった。
それを見て、葵が目を細めて声のトーンを落とす。
「ちょっと……失礼じゃない?」
「あははは、ごめんごめん。だって葵、いつも大人ぶってるくせに急にキャラ変わっちゃうんだもん。おっかしい」
「うっさい! せっかく心配して言ってあげたのに、もういい! 好きにしたら?」
怒ってそっぽを向いてしまった。
「ほんとに、ごめんね……」
背を向ける葵にそっと近づいて、後ろからぎゅっと抱きしめる。
「ちょ、ちょっとあなた、なにしてるのよ」
「少しだけ……このまま」
今の顔は見せたくない。
大切な親友に、これ以上心配をかけたくないから。
美輝と怜はわたしのために、その身を何度も犠牲にして頑張ってくれた。
その苦しみから解放できたのは、葵のお陰だ。
葵がいなかったら、わたしはまたここから飛び降りて、ふたりはまた過去を繰り返していたかもしれない。
だから、葵にはどれだけ感謝しても足りない。
それに決めたんだ。
もうわたしは友達に心配をかけるようなことはしない。
傷ついたり悩んでいる友達を、助けてあげられるくらい強く生きるって。
「ほんと素直じゃないんだから、琴音は。そんなんじゃ、ゆづるが浮かばれないわよ」
その言葉で抱きしめていた腕を緩めて、ふたりして顔を合わせて声を重ねる。
「「ゆづるって、誰?」」