四人で階段を下りると、フロントには結弦のお祖父さんとお祖母さんと千佳さんが待っていてくれた。
長谷川さんは買い出しに行っているらしく、みんなによろしくと言付けていてくれたようだ。
結弦がお祖父さんにお別れの挨拶をする。
「じいちゃんありがとう。世話になったね。体に気をつけて、これからも元気で」
お祖父さんは嬉しそうに微笑んでいる。その表情はとても満足そうだ。
「またみんなで遊びに来なさい。彼女を大事にな」
思わず俯いてしまいそうになるわたしにも、結弦のお祖父さんは声をかけてくれた。
「琴音さん、結弦のこと頼んだよ。なにかあったらいつでもおいで」
そう言って右手を差し出すお祖父さんと握手を交わす。
「お世話になりました。わたしは結弦さんに助けてもらってばかりですので、これからはわたしが支えてあげられるように頑張ります」
握手する手を上下に揺らせて、お祖父さんはしわだらけの笑顔でうんうんと頷いて続ける。
「なんだか来たときと随分印象が違うね。琴音さんはもっと気の小さな子だと思っていたんだがなあ」
そう言って結弦のように、「ははっ」と笑うお祖父さんを見て、わたしはここでの体験に改めて感謝した。
この旅をきっかけに変わることができたのは、温かく迎えてくれたこの旅館の人達がいたからこそだ。
「お手伝いしてくれて本当に助かったわ。よかったらまた来てねえ」
「こちらこそ、すてきな思い出をありがとうございました」
結弦のお祖母さんとも固い握手を交わす。続いて千佳さんも「またおいでね」と言ってくれた。
美輝と怜もそれぞれ挨拶を済ませて玄関をくぐると、三人は揃って外まで見送りに出て来てくれた。
歩き出すわたし達が坂を下って見えなくなるまで手を振ってくれて、わたし達も姿が見えなくなる前にもう一度振り返り、「さようなら」と大きく手を振って別れた。