駄菓子屋の前で足を止めて立ち尽くしていると、店のシャッターがガラガラと音を立てて開き、その音に体をびくっと震わせた。
「いらっしゃい」
シャッターを片手で支えた葵ちゃんが、まるでわたしが来ることをわかっていたかのような口調で言う。
「わたしが来たって、どうしてわかったの?」
葵ちゃんに訊いたのに、奥から見覚えのある猫が顔を出して「ナア」と返事をした。
「この子が教えてくれたのよ……。ふわあああああっ……あふぅ」
欠伸を晒して葵ちゃんが言ったこの子とは、わたし達の前に何度も姿を見せた黒猫のことだった。
わたしをからかっているのかと、すこしムッとして頬を膨らませてみせるが、葵ちゃんは気にせずに続ける。
「あ、これあたしのなんだって? ありがとう。この色すてきね、気にいったわ。琴音ちゃんが取ってくれたの?」
そう言って取り出したのは、昨夜の神社でこの黒猫に奪われたヨーヨーだった。
「それは怜が取ったもので、わたしが預かってたの。ていうか、猫の言葉わかるの?」
猫が教えてくれたなんて本気で言ってるの?
巫女は猫を使い魔にでもしているの?
それならもう巫女じゃなくて魔女じゃない。
葵ちゃんはわたしの疑問を小馬鹿にするようにくすくすと笑うと、問いかけには答えずに言った。
「そんなとこに突っ立ってても仕方ないでしょ。あがって朝ご飯でも食べていきなさいよ」
行く宛もなかったし少しばかり文句を言いたい気分にもなったので、「お邪魔します」と少々無愛想な挨拶をしてから、家の中へとあがらせてもらう。