海岸沿いの道に出ると、たくさんの屋台が横並びに軒を連ねていた。
都会のお祭りと違って人でごった返していることもなく、どこからか太鼓や笛の音が聞こえてきて日本のお祭りらしい涼しげな風情を感じる。
「琴音、りんご飴食べよう」
美輝の誘いに「うんっ」と軽快な返事をして、りんご飴の屋台を探す。
見渡すと、焼きそばやたこ焼きに冷やしキュウリなど様々な屋台がずらっと道沿いに並んでいて、そこかしこから漂ってくる油の匂いが鼻腔をくすぐってくる。
金魚すくいやヨーヨー釣りといった遊戯屋台では、大人も子どもも一緒になって笑い声をあげていた。
「お、あれじゃねえか? りんご飴って書いてあるぞ」
怜が指差すほうを見ても、人垣に視界が覆われてしまってわたしにはよくわからない。
けれど美輝は屋台の場所を確認できたらしい。
「ほんとだ! ふたりも食べる?」
「いや、俺はりんご飴はちょっとな。ひと口だけ味見させてくれよ」
「俺もりんご飴は子どもの頃に食べきれなくて、ちょっとトラウマなんだ。遠慮しとくよ」
「そっか。じゃあ琴音、一緒に買いに行こ」
手を繋いだわたしと美輝は、りんご飴の屋台へ向かって駆け出した。
その後ろを男子ふたりが追いかける。
屋台の前に来るとわたし達以外にお客さんはいなくて、そのまま美輝がお店のおじさんに声をかけた。
「おじさん、りんご飴ふたつください」
「あいよ、うちのはふじだからおいしいよ。はい、ふたつで六百円ね」
わたしが巾着から財布を出していると、横から結弦が千円札をおじさんに差し出していた。
「おぉ、ふたりともお兄ちゃんの彼女かい? やるねえ」
突拍子もないことを言うおじさんが、お釣りを結弦に手渡して千円札を受け取る。
「そうだと嬉しいけど、こっちが俺の彼女で、こっちは後ろの奴の彼女だよ」
「そうかい、いやあかわいい彼女でよかったねえ」
「うん、俺の自慢なんだ」
差し出されたりんご飴を受け取ったわたしの顔は、受け取ったそれのようだったに違いない。
昨日から、結弦はさりげなくわたしが喜ぶことを言ってくれる。
その度に頬が赤くなっている気がして、顔を隠すのが大変だ。
「ありがと、結弦。でもいいの? わたしらちゃんとお金持ってきてるよ?」
美輝の言葉にわたしもうんうんと頷く。
「いいんだよ。旅館の手伝いもしてもらったし、これは俺からのお礼だよ」
「そう? じゃあ、甘えとくね。ありがと」
美輝はそう言うと手に持ったりんご飴をひと舐めして、怜にほらっと手渡していた。
「結弦、ありがとう。いつも甘えちゃってごめんね」
「ごめんねは余計だよ。さあ、次行こう」
結弦はいつでも安心する言葉をくれる。
りんご飴を両手で持ったまま、わたしはしばらく結弦の後ろ姿を眺めていた。
結弦を見つめながらひと舐めしたりんご飴はとても甘くて、その優しい甘さに、心までとろけてしまいそうだった。
「琴音ー! はぐれちゃうよー!」
美輝の声ではっとしたわたしは、慣れない下駄を夕空へ鳴らして、みんなのもとへと駆け出した。