「これ、着れるかしら?」
そう言って見せてくれたのは、二着の浴衣だった。
一着は濃紺がベースで、蝶をあしらった大人っぽい雰囲気の柄。もう一着は白地がベースで、朝顔をあしらった爽やかなイメージだ。
「もしかして、着させてもらえるんですか?」
目の前に広げられた立派な浴衣に、尻込みしながら訊ねる。
「ええ、数だけはあるんだけど、なかなか着てあげる機会がなくてね。よければあなた達が着てくれると、この浴衣も喜ぶと思うんだけど」
思いがけない展開にわたしが目を瞬かせていると、美輝が声を上げた。
「嬉しい! ありがとうございます!」
続いてわたしも「ありがとうございます」と頭を下げる。
「よかったわ。じゃあ、蝶の柄が琴音ちゃんで朝顔柄が美輝ちゃんね。わたしとお母さんで選んでみたのよ。これでよかったかしら?」
「はい、とっても気にいりました! 琴音のほうも落ち着いた雰囲気で琴音っぽいよ」
「そ、そうかな。わたしこんなにお上品だったらいいんだけど」
用意された浴衣はわたしの好みにぴったりだけれど、これを着こなせるかどうかはまた別問題だ。
「琴音ちゃんには、日本人らしい奥ゆかしさがあるのよ」
千佳さんにそう言われ、一目見て気にいった浴衣を前にわたしは照れながら頭を下げた。