朝食は一階の食堂に用意されていた。
朝早いにも関わらず食堂はほぼ満席で、笑顔で朝食を摂る宿泊客達で賑わっている。
入口に居た仲居さんの案内を受け、わたし達は中庭がよく見える席についた。
「おはよう。みなさんよく眠れた?」
しばらくして千佳さんがお茶とおしぼりを持ってきてくれた。今日は薄青色の生地にきれいな装飾が施された着物に身を包んでいる。
「おかげさまで朝までぐっすりでした。温泉で疲れもよく取れたので」
美輝が嬉しそうに答える。
昨日は二度も入っていたし、ここの温泉を心底気にいったようだ。
「ありがとう千佳さん。夕食も豪勢ですごくおいしかったし、みんな大満足だよ」
結弦が爽やかな笑顔を携え、みんなの気持ちを代弁してくれた。
「ふふ、ありがとう。その代わり今日は草刈り頼むわね。みんなもごめんなさいね。うち若い人も男手も、どっちも足りてなくて」
「任せてください。体力だけは自信あるので」
自信満々に返事をする怜に、美輝が横から凝いの視線を送っている。
「ありがとう、期待してるわ。それじゃなにかあったら遠慮なく言ってね。ごゆっくりどうぞ」
そう言って千佳さんは踵を返すと、奥ゆかしさと気品が滲み出る足取りで食堂を後にした。