「ありがとう、美輝。そうだね、そう思うことにする。それで、美輝は怜とどんなこと話したの?」
切り返しの問いかけに、美輝は人差し指を顎に当てて天井に目をやりながら言った。
「わたしらは大した話はしてないよ。漫画の話とか、それくらいかなあ」
「なんて漫画? 最近のやつ?」
「えっと、【もう一度、君に片思い】だよ」
それならわたしも知っている。
確か主人公の男の子が、病気ですべての記憶をなくしてしまった彼女と、もう一度最初の出会いからやり直す物語だ。
「あの漫画って、アニメの続きがあるんでしょ? わたしも読んでみたい」
「うん。実は怜が好きでさぁ。それでわたしも読んでるうちにハマっちゃったんだ」
懐かしいタイトルで、頭の片隅で忘れられていた記憶が甦る。
「怜にしては意外だね。そういえば漫画で思い出したんだけどさ、今度映画観に行こうよ」
「映画って、今なにやってたっけ?」
「わたし、観たい映画あったんだ。【未来の虹を求めて】ってやつ」
「……っ!」
途端に美輝の表情に影が落ち、暗闇でもはっきりわかるくらい、その表情はみるみるうちにこわばっていく。