「え……」
(けっ……こん?)
無理だ。レイルが王族で、オリヴィアが悪役令嬢である限り結婚など。
オリヴィアの名前は既に汚れ、国中に知られてしまっている。
「待って待って、レイルくん。私、第一王子から婚約破棄された女だよ? もう令嬢でもないし、私の評判は最悪。絶対王家は認めない。無理だよ」
「僕ね、いずれ王宮を出るつもりだったんだ。国を継ぐのは生まれたときから兄様って決まってたし……お父様もお母様も、兄様さえいればいいみたいな感じだったから。僕はこれまでまったく期待なんてされなかったし……いてもいなくても同じ透明人間なんだ」
オリヴィアはすくっと立ち上がった。
つかつかとレイルの前に立つと、その身体をぎゅっと抱き締める。
その瞬間、レイルは息を詰めた。
「え……あ、あの、オリヴィアさん?」
戸惑うような声を漏らすレイルに、オリヴィアは言った。
「そんなことない。レイルくんは私みたいな人にも最初から優しくしてくれた」
きっとレイルは、オリヴィアがこれまでどれだけレイルに救われていたか、知らないのだろう。
「……私、たぶんレイルくんがいなかったら、とっくに心折れてたよ」
国中の嫌われ者。そういう設定だとはいえ、なにも感じないわけではない。
「僕だってそう……初めてオリヴィアさんに頼られて、僕……死ぬほど嬉しかった」
レイルがオリヴィアの背中に手を回す。そのままぐっと腕に力を入れた。
「好き……オリヴィアさん」
かっと頬が熱くなった。ばっと手を離すが、レイルは離さない。
「ちょ、レイルくん、いきなり告白は心臓に悪いよ」
「だって好きなんだもん」
(直~!! 心臓が止まる)
レイルがオリヴィアの背中に回していた腕を腰に下ろし、ぐっと引き寄せた。
「ちょっ……わっ!」
レイルはオリヴィアのお腹に額をつけた。そのまま囁くように言う。
「魔法具を作って売ってるから稼ぎもある。オリヴィアさんを困らせるようなことは絶対しない。あの王宮を出れば王家は関係なくなるし、それでも気になるなら、名前を変えればいい。戸籍の細工だって、必要ならやるし」
「……そ、そこまではいいよ」
レイルは腕の力を強めた。
「どうしてもオリヴィアさんがほしいの」
こんな熱烈な告白を自分が受けるだなんて、まったく予想しなかった。
オリヴィアは浮つくような気持ちでふっと微笑む。
「……ありがとう。すごく、嬉しい」
ぽん、とレイルの頭に手を置き、わしゃわしゃと撫でると、レイルは顔を上げ、恨めしげにオリヴィアを見た。
「子供扱いやめて」
「だって可愛い~」
「可愛いは嬉しくない……」
と、口を尖らせるレイルはやっぱり可愛い。レイルは表情を引き締めると、オリヴィアに言った。
「オリヴィアさん……僕の気持ちはなにがあっても変わらない。これからは僕のこと弟としてじゃなく、ちゃんと男としてみてくれる?」
「……うん」
(……正直、もうずっと前から見てるけど……)
耳にかけていたレイルの銀髪がさらりと垂れる。その光景は、言葉を失くすほど美しかった。