嫌な予感がする。
「……そ、その前になんかお腹減った気がしない?」
「うん。僕ももうお腹ペコペコ」
「でしょ? それならやっぱりまずは食事に……」
「うん。食事ね。だから、先に僕に食べさせてほしいな」
「さ、先にって、どういう……?」
じわりと汗が滲んだ。
「……ほら、着いたよっ」
あれよあれよという間にベッドに優しく下ろされる。レイルの体温が離れ、ホッとしたのも束の間、ギシッとスプリングが音を立てた。
やはりレイルはオリヴィアを解放する気はないらしい。そのままオリヴィアに覆い被さると、性急に唇を塞いできた。
余裕のないキスに、オリヴィアは呼吸を乱される。
「あの……レ、レイルく……」
息継ぎの合間にレイルを見上げる。酸欠で視界が滲んだ。
「オリヴィアさん、可愛い……ねぇ、教えてくれる?」
「お、教えるってなに……」
「僕ってさ、独占欲強いみたいなんだ。僕以外の男がオリヴィアさんに触れたとか、考えただけでも許せない……」
ぎくりとする。目が泳いだ。
「……ねぇ、オリヴィアさん。兄様が触ったのはどこ? 全部僕が染め直してあげるから、教えて?」
いつになく甘い声に胸が鳴る。
「ど、どこも触ってないよ」
「ふぅん……そういうこと言うんだ」
(ヤバい。目が座ってる……)
オリヴィアの全身から、だらだらと脂汗が吹き出す。
「……分かった。教えてくれないなら、いいよ。全身にキスしてあげる」
と、レイルはソフィアから借りたドレスを慣れた手つきではだけさせていく。
「ちょっ……レイルくん、これソフィア様に借りたものだから」
「知ってる。全然可愛くない……」
「か、可愛いよ。失礼だな、もう」
「やっぱりオリヴィアさんに似合う服は僕しか作れないんだな……次はどんなドレスを作ろうね? 胸元が開いたドレスもいいけど、他人に見られるのはやだな……でも似合いそうだけど」
と、言いながらレイルはオリヴィアの胸元に吸い付いた。
「んっ!」
ちゅっとリップ音を残して、オリヴィアの白い肌に花が咲く。
レイルはキスを繰り返しながら、何度も呟く。
「オリヴィアさん……好き。大好き」
「……ありがとう」
愛を囁かれ、ハッと気付く。
(……そういえば私、まだレイルくんに想いを言ったことなかった気がする)
ちょん、とレイルの袖を引く。
「……あの、レイルくん」
「ん? どうしたの? オリヴィアさん」
袖を引かれたレイルが顔を上げ、オリヴィアを見つめる。
「あのね……私も、好きだよ。レイルくんのこと」
オリヴィアは込み上げてくる恥ずかしさを堪えて、囁くように言った。
その瞬間、レイルの顔が真っ赤に染まる。
「わ……レイルくん顔真っ赤」
「ち、違っ……いや、だって! 今のは反則でしょ、オリヴィアさん……」
顔を真っ赤にして恥ずかしがるレイルを見て、オリヴィアまで赤面する。レイルの熱が移ってしまったようだった。
「わ、私はただ、レイルくんがいつも言ってくれて嬉しいから、真似してみたんだけど……ダメだった……?」
「ダメじゃないけど……うん、まぁ、ダメじゃないね? お互い大好きってことだもんね」
「う、うん……?」
にこっと懐っこい笑みを浮かべたレイルから、再び熱いキスが降ってくる。
さっきよりもさらに深く、お互いの唇を押し付け合うようなキスだった。
「煽ったのはオリヴィアさんだから、覚悟してね?」
耳元で囁かれ、オリヴィアは頬を染め、深くベッドに沈み込む。
「もう好きにしてください……」
オリヴィアは愛する王子に白旗を上げたのだった。