レイルと共に洋館に戻ったオリヴィアは、ようやく息をついた。
「とりあえず一件落着……でもまさか、王家に迎え入れてもらえることになるなんて思わなかったな……」
(隠しルートってやつなのかな)
しかも、レイルと一緒に王家公認のドレスブランドを立ち上げられるだなんて、夢にも思っていなかった。こんなことがあるのだろうか。
「そうだね。僕もこれは想定してなかったよ。まぁ、僕はできれば王宮じゃなくて、この洋館に住み続けたいけど」
オリヴィアは首を傾げた。
「そうなの? どうして?」
きょとんとした顔をするオリヴィアに、レイルは表情を綻ばせた。
「だって、ここならオリヴィアさんとずっと二人きりでいられるでしょ」
息が止まる。オリヴィアは恥ずかしそうに俯いた。
「……引越しとかは、レイルくんに任せるよ。私もここは気に入ってるから」
(……私、なんやかんやものすごく恵まれていたのでは?)
「本当? じゃあもう少し考えて決断しようか」
「うん……それにしても、今日はいろんなことがあって疲れた。ラファエル王子ってすごく愛情深い人だったんだね。まさかあんなにソフィア様を溺愛してるだなんて思わなかったよ」
正直なところ、意外だった。ラファエルはもっと淡白な人かと思っていた。
「あぁ……兄様はせっかちなところがあるからね。まったく昔から困ったものなんだよ。でも、いくら謝ってくれたからって、僕は絶対オリヴィアさんにした仕打ちは忘れないからね」
レイルは珍しく怒っていた。
ただ、怒るといっても頬をふくらませてぷんっ、とした感じなので、怖いというよりは可愛い感じになっているが。
レイルはちらりとオリヴィアを見た。まだ眉は下がっている。
「怪我は治ったからよかったけど……次オリヴィアさんになにかしたら、僕は今度こそ兄様を許さない」
そう拳を握るレイルの横顔が、ふとラファエルがソフィアを見つめる視線と重なった。
ラファエルはきっと、ソフィアを心から愛しているのだろう。
「似てるんだね。ラファエル王子とレイルくん」
レイルはきょとんとした顔でオリヴィアを見た。
「え、僕と兄様が? え、どこが? 髪色から違うけど」
そこなのか。
「いや、うんまぁ……それはそうなんだけど。好きな人のことになると見境なくなるところとかが」
レイルはぼんやりと宙を見て、
「……そう、かな」
と呟いたものの、やはりつんと唇を尖らせた。
「……これからは、仲良くなれるといいね」
オリヴィアがぽつりと言うと、レイルはムッとした顔をした。
「ダメ」
「えっ」
「ダメ! オリヴィアさんはこれ以上兄様に近付かないで」
「えぇ?」
「……僕じゃ、兄様にはどうしたって敵わないから。兄様と過ごした人はみんな、大好きになるから……」
あからさまな嫉妬を向けられ、むず痒くなる。
「……私は、レイルくんだけだよ。レイルくんのことが大好きだから」
「オリヴィアさん……」
「だから、私の愛を疑わないで」
レイルは、その言葉に心底ホッとしたように息を吐いた。
「うん。僕も、大好き」
オリヴィアとレイルは、花が溢れるように笑い合った。
(……幸せ)