「……噂?」 

 オリヴィアは首を傾げた。すると、それまで黙っていたレイルが言った。

「……ごめん、オリヴィアさん。僕が話したんだ。君が、本当はわざと婚約破棄されようとしていたこと。それから……ソフィア様を陥れようとしたのは全部、僕だったこと」

 ラファエルは驚いた顔をして、レイルに詰め寄った。
 
「レイルが、ソフィアを……? では、噂の実行犯はレイル、お前だったのか? なぜだ、どういうことだ。答えろレイル!」

「……ごめん、兄様。オリヴィアさんが好きだったから、どうしても兄様から奪いたかったんだ」
「……だから、ソフィアをいじめたのがオリヴィアだとして、俺にオリヴィアを追放させたのか」

 ラファエルは額を押さえた。

「レイル。お前は自分がなにをしたのか分かってるのか……お前のせいで、ソフィアはしなくていい辛い思いをしたんだぞ」
「分かってる……本当に最低なことをした」

 と、レイルは俯いた。オリヴィアがすかさず口を挟む。

「違うんです。元はと言えば、私がレイルくんに協力を頼んで……」
「違うよ、オリヴィアさんは悪くない。僕が勝手にやったことだ」

 すると、今度はソフィアが二人の前に立ち、ラファエルに向き合った。
 
「ラファエル王子、これは私たちにも責任があります。私たちは噂の事実確認をなにひとつしないまま、それを鵜呑みにして彼女を悪役にしてしまいました」
「……そうだな。たしかに、私たちにも非はある」

 ラファエルはそう言うと、静かにオリヴィアに歩み寄った。
 オリヴィアはびくりとして、身を小さくする。

「……オリヴィア」

 オリヴィアのドレスは泥だらけで、ところどころ裂けてしまっている。顔にも泥が付き、頬にはラファエルの剣で切られた痕があった。

 オリヴィアの瞳は未だラファエルへの恐怖に怯えている。

 ラファエルは膝をつき、そっとオリヴィアの頬に手を伸ばす。
 すると、ラファエルの手からオリヴィアを庇うように、レイルがオリヴィアを抱き寄せた。

 ラファエルは目を伏せ、手を下ろした。
 
「……すまなかった」

 と、呟いた。

「い……いえ」

 オリヴィアは驚きつつ、首をかすかに振った。
 レイルは驚きに言葉を失っている。

 ラファエルはオリヴィアに謝罪すると、すくっと立ち上がった。
 
「医官に手当てさせる。レイル、オリヴィアを応接室へ連れて行け」
「あ……う、うん」 



 その後、手当てを受けたオリヴィアはソフィアからドレスを借りた。

 ハイウエストな木蘭色のレトロワンピースだ。なかなかセンスがいい。

 そして、王宮側はオリヴィアに正式に謝罪したのち、刑を撤回。ローレンシア公爵家への説明についても、必ず責任を持って最後までやらせてもらうとのことだった。
 
 オリヴィアもレイルと共に、改めてこれまでのことを謝罪をした。
 
 ラファエルとの婚約破棄については、お互いの協議の結果円満に破棄ということに至り、オリヴィアとレイルは正式に婚約することが認められた。

 そしてなんと、王宮に住まうことが許されたばかりか、レイルとオリヴィアは裁縫の腕が買われ、王立の魔法具ドレスブランドを立ち上げることになったのである。