オリヴィアを殴ったラファエルの息は上がっていた。顔は苦しげに歪められ、綺麗な顔が台無しだ。
(珍しい……いつも感情を表に出さない人が、こんなに……)
ラファエルはじりじりと近付いてくる。オリヴィアは恐怖で身体が硬直した。
「貴様、ソフィアをどこへやった」
「え?」
(どういうこと……?)
立ち上がったオリヴィアは眉を寄せた。
「なんのことですか」
「しらばっくれるな! 貴様がソフィアを連れ去ったのだろう!」
ぐっと胸ぐらを掴まれ、揺さぶられる。
「そんな……私じゃな……」
ラファエルは、苛立ったようにオリヴィアを突き飛ばした。手を拘束されていたオリヴィアはバランスを崩し、地面に倒れ込んだ。
「……まぁ、いい。言わないというのなら生かしておく理由はない。刑を執行するだけだ」
「刑?」
ラファエルはオリヴィアを見下ろし、意味深な含み笑いを浮かべた。顔が整っている分、迫力がある。
ハッとする。
オリヴィアは、死刑となって牢から逃げ出したのだ。
オリヴィアの顔面から、サーッと血の気が引いた。
(……嘘。私、また死ぬの……?)
泣きそうになり、歯を食いしばった。
(レイルくん……)
――誰か、助けて。
心の中でオリヴィアは泣き叫んだ。
オリヴィアは再び地下牢へ閉じ込められた。
前に拘束されたときより頑丈な南京錠をかけられる。
「ソフィアへの愚行だけでは飽き足らず、弟を垂らしこんで罪を逃れるとはな。とんだ悪女だ。しばらくこの牢で頭を冷やすがいい。……ま、次に出るのは死ぬときになるけどな」
ふん、と吐き捨てるように言うと、ラファエルは地下牢から出ていった。
ラファエルは、ゲームの序盤とはまるで別人のようだった。彼の中でのオリヴィアへの嫌悪は、かなり強くなっているように感じる。
(最悪だ……ゲームはヒロインのハッピーエンドで終わったと思ってたのに)
オリヴィアは膝から崩れ落ちた。もはや涙すら出ない。
(……とうとう詰んだのか、私の人生)
オリヴィアは俯いた。
ブラウスやは泥で汚れ、スカートは大きく裂けてしまっていた。
(せっかくレイルくんが作ってくれたものだったのに……)
サッサッと、できるかぎり服の泥を払う。
「ごめんね、レイルくん」
そろそろ帰ってきた頃だろうか。
オリヴィアが突然いなくなって、レイルはきっと心配しているだろう。
これまでずっと助けてきてくれたレイルに、オリヴィアは結局、なにも恩返しができなかった。
オリヴィアは目を瞑り、手を合わせる。
もしまた転生することが許されるのなら、今度こそ彼の運命の相手になれますように――と。