一方オリヴィアは、ラファエルによって捕らえられていた。
ラファエルは無理やりオリヴィアを王宮に連れ戻すと、そのまままっすぐ地下牢へ向かった。
ぐっと、ラファエルの指先が腕に食い込み、オリヴィアは顔を歪ませた。
「痛いっ……」
ラファエルの態度は、とても元婚約者への態度とは思えなかった。
まあ、オリヴィアもそれなりのことをしたことになっているので致し方ないのかもしれないが。
(……この人にとって、私は悪役。そりゃ弟がそんな女と付き合ってたら心配にもなるか……)
しかも、オリヴィアはラファエルの元婚約者で未来の国母を陥れようとした大罪人である。
胸の内が、すっと冷えていくようだった。
「手を離してください。……もう逃げないから」
「それなら手を拘束させてもらうぞ」
そこまでするのか、とオリヴィアはラファエルを見上げた。
「…………」
「ようやく見つけたんだ。また逃げられでもしたら困るからな」
ラファエルはオリヴィアを冷ややかに見下ろし、続ける。
「貴様は断罪を待つ身で逃げ出したんだ。これくらい当然だろう」
「……私を、これからどうするつもりなのですか」
「ふん。分からないのか。……まあ、それもそうか。ソフィアにあんなことをしておいて、のうのうと生きていられるようなバカな女だもんな」
オリヴィアは拳をギュッと握る。本当のことを言いたいけれど、言ったらどうなるのか。
「それは……ソフィア様へのことは……」
「貴様が軽々しくソフィアの名を呼ぶな!」
「きゃあっ!!」
思い切り頬を張られる。オリヴィアの小さな身体は軽々と吹っ飛んだ。
倒れた拍子に腕が切れ、傷口からぷっくりとした血が溢れ出す。目眩がした。
「うっ……」
転生して、ようやく平穏な日々になるかと思った。
自分が悪役令嬢だと知って最初こそ落ち込んだものの、それでもレイルのおかげで幸せに暮らしていたのに。
オリヴィアの瞳に、涙が滲んだ。
(私は……どうしてこんなに惨めなんだろう)