レイルは街に出ると、取引相手と待ち合わせをしたカフェに入った。
 木製のドアノブに手をかけると、からからと軽やかなベルの音が響く。

 レイルは扉の前で立ち、待ち合わせた取引相手を探した。
 まだ来ていないようだ。
 
 もう一度店内を見る。どこに座ろう。
 カウンターには、サイフォンが四台も置いてある。コーヒーに力を入れている店のようだ。

 今度オリヴィアを連れてきてやろうなんて思ったとき、脳裏にふとコーヒーを飲んできゅっとした顔をした彼女を思い出す。

 頬が緩んだ。オリヴィアにはシュガーとミルクは必須なのである。
 ちなみに、紅茶もストレートよりミルクティーをよく好んで飲んでいる。

 ついさっきまで一緒にいたというのに、もう会いたいと思ってしまう。レイルは大概だな、と苦笑を漏らした。
 
「いらっしゃいませ、お客様」

 佇んでいると、ウエイターに声をかけられた。顔を上げて目を合わせると、ハッと驚いた顔をした。
 
「これはこれは、レイル王子」
 ウエイターはレイルに気付くと、うやうやしく頭を下げた。
 
「待ち合わせなんです。テーブル席にいいですか」
「もちろんでございます。二階の個室もご用意できますが」
「いえ、ここで大丈夫ですよ」

 レイルは通された奥の席に腰を下ろすと、店内を見渡した。 
 
 少し古ぼけた木のテーブルや椅子には、数組のカップルや家族連れが座っていた。
 落ち着いた雰囲気の古風なカフェだ。

 からからと再びベルが鳴る。レイルは扉に顔を向けた。
 
 そこに立っていたのは、ラファエルの新しい婚約者となった、この乙女ゲームのヒロイン、ソフィア・ハミルトンだった。