「さて。私も着替えようかな」

 カーディガンを合わせるのなら、とコーディネートを考える。

 クローゼットの数あるドレスの中から、弦や蔦の刺繍が施された若草色のシフォンブラウスとクリーム色のヘップバーンスカートを手に取った。

 オリヴィアのお気に入りのドレスのひとつである。
 まるで森の木漏れ日をイメージしたようなブラウスの艶感がたまらない。

「この服なら髪は編み込んでみようかな……」

 ひとりごとを呟いていると、
「いいね。それなら僕がやってあげるよ」
 と、声がした。
 
 驚いて振り向くと、着替えを済ませたレイルがいた。

 レイルの今日の服装は、夜空色の三つ揃いのスーツだった。
 ネクタイは鱗模様で、ピンは錦鯉のような魚の形をしている。遊び心満載で可愛らしい。
 
 銀髪は高い位置で結えられ、まるでシルクのようだ。夜空色のスーツに落ちた銀色は、まるで天の川の流れを連想させる。

 思わず見惚れていると、

「ほら、こっち」
 と、手を取られた。
 
「えっ、いいよ。これくらい……」
「やらせて?」

 レイルは優しくオリヴィアの手を引くと、ドレッサーの前に座らせる。

「オリヴィアさんの髪はさらさらで綺麗だね」
「そんなこと……」

 それを言うなら、レイルの銀髪の方がずっと綺麗だ。
 
 そうこうしているうちに、レイルによって髪を編み上げられた。

「どう?」
「すごい! 可愛い!」

 自分でやるよりずっと早いし丁寧だ。

 ありがとう、と言おうとして振り向くと、オリヴィアの顔に影が落ちた。
 小さなリップ音が静かな部屋に響く。

「!」

 オリヴィアが固まると、レイルはもう一度、今度はもう少し味わうように唇に口付けた。
 柔らかくあたたかい感触に、オリヴィアは目を瞠る。

 レイルがはにかむように笑う。
 
「オリヴィアさんの充電しとかないと、途中で電池切れるといけないからね」

 レイルは顎に手を添えたまま、囁くように言った。
 
「こういうことするなら……その、先に言ってくれても」

 オリヴィアは頬を染めて、恥ずかしそうに俯いた。

「おでことかほっぺはいいのに?」
「だって、不意打ちは心の準備ができてないし……その、もう完全に目が覚めてるとかなり恥ずかしいというか……」
「じゃあ、次からは申告する。その代わりもっと深くしていいよね?」 

 ピキッという音がした。オリヴィアが固まる。瞬く間に顔が真っ赤になった。

「冗談だよ」
「か……からかわないでよ、もう」

 すると、レイルがふふ、と笑う。オリヴィアは口を尖らせた。

「可愛いなぁ、オリヴィアさん」

 まったく、レイルには敵わない。

「じゃあ、行ってくるね」 

 レイルはひらひらと手を振って、にこやかに街へ出かけて行った。