甘い花の香り。天井の高い部屋に、清潔なシーツ。オリヴィアの身体は、薄鼠色をした花柄の編み上げワンピースに包まれている。
スカートの裾は透けていて、オリヴィアの細く白い足を美しく映していた。
まさに深窓の令嬢そのもののオリヴィアだが、彼女はつい先日まで――悪役令嬢のはずだった。
「オリヴィアさん、ご飯できたよ」
香ばしいパンの香りとともに、ひとりの男性が部屋に入ってくる。
ハイネックのロングジャケットを着た色白の美青年だ。長い銀髪がさらりと揺れる。
男性はオリヴィアを見ると、ハッとしたような顔をした。
手に持っていた朝食のプレートをテーブルに置き、ベッドに来る。
「あ……あの……?」
片脚をベッドに乗せ、オリヴィアの肩に触れた。
びくり、と肩が跳ねる。
強い力で押さえつけられているわけでもないのに、オリヴィアは動けなくなった。
男性の指が、ツーッとオリヴィアの首筋から胸元へすべっていく。
「……あぁ、やっぱり。痕、着いちゃってるね」
ごめん、と、男性の顔が苦悶に歪む。
「すぐに新しい服を作ってあげる。オリヴィアさん、今はとりあえず別のドレスに着替えて……」
「え……いや、これくらい大丈夫だよ。全然きつくないし」
可愛いし、と、オリヴィアは首を横に振る。
すると男性は、
「ダメだよ」
と、冷ややかに言った。
男性の深い藍色の瞳がオリヴィアを捉える。その瞳には、有無を言わさない圧があった。
「君に痕を付けていいのは、僕だけだから……ね? オリヴィアさん」
「……う、うん」
素直に頷くと、男性はにこりと笑った。
「いい子」
ワンピースの痕がついた素肌に甘やかなキスが落ち、オリヴィアはくすぐったさに身悶えた。
男性は満足したように微笑むと、コロッと空気が変わる。
今度は無邪気な笑みを浮かべて、
「さて、ご飯できたよ! 一緒に食べよう?」
「うん……」
それは、かつてオリヴィアの婚約者であったラファエル王子の弟、レイル・スコットだった。