「アシュレイ様、私とコンビを組んで、ぜひDー1グランプリに」

「出ませんよ」

 ちゃっかりダンス大会のお誘いをしてみたが、即座に拒否された。

 くうっ、優勝賞金狙えるレベルなのに……。

 仕方ないので大人しく諦め、家庭教師の本分に立ち返る。
 
「イアン様、よく見ていて下さい! これが完璧なお手本ですよ!」

 踊りながら声をかけると、イアンは大はしゃぎ。興奮で頬を真っ赤にして「すごーい!」と叫び、時折「クルッてターンして」とか「ステップ踏んで!」とかおねだりしてくる。
 
 ()われるまま踊りを披露していると、あっという間に曲が終わってしまった。
 
 上手な相手とのダンスは楽しくて、一瞬で過ぎ去ってしまう。
 
 ふぅ、良い運動になった――と清々しい余韻に浸っていると、私のドレスをイアンがちょんちょんと引っ張った。

「どうしたんです?」

「ビッキーって、すごいね」

 キラキラお目々でこちらを見上げるイアン。

「ダンスのことですよね? まぁ、自分で言うのもなんですが、かなり上手な方だと――」

「ううん。違う違う、そうじゃない」

 あっさり否定されて、私はガーンと地味にショックを受けた。

 ダンスの上手さを褒められたと思ったのに。
 無駄に胸を張った自分が恥ずかしい……。

「ううっ……『すごい』って、何がでしょう?」
 
 しょぼーんと肩を落としながら尋ねると、イアンは私の顔をまじまじ見つめたあと理由を教えてくれた。