大きな掌、長い指。騎士にしては綺麗な手だなと思っていたけれど、触れてみると『あぁ……戦う男性の手だ』と分かる。剣だこが出来て皮膚が厚く硬くなっていた。
 

「それでは、私が合図するまで基本ステップをお願いします」

「分かりました」

 曲のタイミングを見計らって、リード役のアシュレイが滑らかに動き出す。
 
 導かれるまま私も踊り始め――すぐさま驚きに目を見開いた。

 
 なにこれ……ものすんごく上手じゃない!!

 
 ダンスに慣れ親しんだ男性の中には、自分の技術を見せつけようとしてリードがおろそかになったり、女性を力尽くで振り回したりする人がいる。

 だがその点、アシュレイは踊り自体の上手さに加えて、女性への気遣いも完璧。
 
 この人になら身体を預けても大丈夫だと思わせてくれる安定感があった。

 これまで社交界で多くの男性と踊ってきたけれど、こんなに安心できるパートナーは居なかった。
 
 あぁ、何てことでしょう。

 私はダイアモンドの原石を見つけてしまったわ!
 
 アシュレイは磨けばもっと光る……!
 
「凄いですわ、アシュレイ様! 驚くほどお上手じゃないですか! これは、毎年王宮で行われる国内最大級のダンス大会、D-1グランプリで優勝を狙えるレベルですよ!」

「そう、ですか。お褒めにあずかり光栄です」

 才能の塊を見つけた興奮で、私は踊りながら無我夢中でアシュレイを褒め称えた。
 
 満面の笑顔で「凄い!」「逸材を見つけてしまった」と連呼する私に、彼はやや困惑の表情を浮かべている。