「『バレましたか』みたいな顔でこっちを見てもダメですよ! はい、戻って来て下さい」

 私に手招かれたアシュレイは、複雑な表情を浮かべながら戻ってきた。
 
 
 逃げ出したくなるほどダンスが下手なのかしら?
 それとも、ご令嬢の足を踏んでしまったトラウマがあるとか……?

 
 どちらにせよ、爵位を得て貴族になった以上、舞踏会への出席は免れない。彼の容姿では壁のシミになるのは不可能だし、理由もなくダンスを断れば社交界での評判も落ちる。

 
「苦手なお気持ちは分かりますが、アシュレイ様の今後のためにも、ダンスは踊れるようになった方が良いと思うんです。試しに少し踊ってみましょう?」
 
 まずはどの程度踊れるのか把握するため、私はアシュレイの手をやんわり取った。

「いや……俺はその……」と彼が口ごもる。
 
 私はぐずる子どもをあやすように「だーいじょぶ、だいじょぶ。怖くないですよ~」と優しくなだめつつ、彼の両手をがっちりホールド。
 
 
「イアン様にお手本を見せてあげたいので、まずは基本ステップから参りましょう。お相手お願い出来ますか?」

 にっこりお願いすると、さすがに逃げられないと悟ったアシュレイが諦めの表情で頷いた。姿勢を正して片手をきちんと握り直し、私の腰にもう片方の手を添える。