イアンがキリッとした顔で頷く。左手にはメモ帳、右手にはペンを持っている。よほどダンスに誘いたい子がいるのだろう。やる気満々だ。

 熱心にダンス講義を聴く六歳児の隣で、二十二歳成人男性がイマイチやる気なさそうなのが気になるが……。

 まぁ、それはひとまず置いておくとしましょう。

「ダンスは男性から誘うのが一般的なマナーです。女性達は視線や仕草で『踊っても良いわよ』とアピールをしてきます。女性のささいな言動を観察して心を察するのが、一流の紳士です」

「はいっ、先生!」

「イアン生徒、良いお返事ですね」

 メモを取り真剣に話を聞く幼い生徒に、私もにっこり。
 一方、もう一人の生徒はというと――。

「アシュレイ様、こっそり逃げようとしても、そうはいきませんよ」

 忍び足で脱走しようとしていたアシュレイが、ぎくりと足を止め振り返った。