「いや、俺は結構です」

「何を仰います。貴族学校では、しょっちゅう懇親会と称した舞踏会が開かれるんですよ。子どもだけでなく、保護者も踊れなくちゃ」

「壁のシミになるわけには、いかないでしょうか?」

「壁のシミ?」

 パーティで人の輪に入れず壁際でたたずむ女性を「壁の花」というが、その男性バージョンが「壁のシミ」らしい。

 社交場で女性から相手にされない男性、という意味でも使われる言葉のようだが……。


「あなたのような独身美男が壁のシミになっていたら、ご令嬢が甘い蜜を求める虫のように(むら)がって大迷惑です。さあ、とにかく一緒に練習しましょう!」

「アシュレイ、一緒にダンスの練習しようよ!」

 二対一で勝ち目がないと悟ったのか、アシュレイはしぶしぶといった様子で観念した。
 

 
 ダンスホールを兼ねた大広間につくと、「こちらへ」とアシュレイが手招きして歩き出す。

「曲を流したい時は、この魔道蓄音機を使って下さい」
 
 そう言って彼が指さしたのは、蓄音機型の立派な魔道具。

 この国で採れる魔道石を用いた『魔道具』は、さまざまな種類、価格帯のものがあるが、総じてどれも値段が高い。

 これだって、私の給金の半年分はするだろう。

 しかも見たところ最新型で高価格帯の逸品だ。

 子どものダンス練習用に、こんな高いものを買えるなんて。