計画表を見てあれこれ思案していると、横でイアンが「んん~」と(うな)った。

 ペンを持ったまま難しい顔をしているが、目はテキストを素通りして、窓の外の雲に向けられている。

 完全に集中力が切れているわね。

 私は参考書にしおりを挟み、ぱたんと閉じた。

「イアン様、勉強は一旦お休みにして、休憩しましょうか」

「いいの?」

「焦っても良いことありませんからね。たまには、ぱーっと遊んで気分転換してから、また頑張りましょう!」

「やったー!」

「何をして遊びますか?」

「ダンス!」

「了解です! では行きましょうか」

 ご機嫌なイアンと並んで廊下を歩いていると、正面からアシュレイがやってきた。

 勤務中は一分の隙も無くかっちりと騎士服をまとっているが、休日は白シャツに黒いズボンというラフな服装で、髪も無造作に下ろしている。

 こちらに気付いた彼が、おや? という顔をした。
 
「あれ、勉強はもう終わったんですか?」

「ちょっと息抜きにダンスの練習をしようと思って。そういえば、アシュレイ様はダンス、お得意ですか?」

「まぁ、そこそこ、ですね」

 アシュレイがすいっと視線をそらす。
 
 うん。キミ、嘘ついてるねぇ。その顔、絶対にダンス苦手だよねぇ。
 バレないと思ったの? 残念ながら、お見通しよ?
 
 冷静沈着で一見あまり表情が変わらないアシュレイだが、よく観察すると、割と表情豊かだったりする。

 特に視線。嘘をつくときは大抵そらす。

 前世女優だった私の観察眼からは逃れられないわよ――と思いながら、私はにっこりほほ笑んで提案した。

「アシュレイ様も一緒に練習しましょうか?」