契約書に不備がないか最終チェックしていると、唐突に「それから、俺とイアンの関係ですが――」とアシュレイが話を切り出してきた。
 

「イアンは、世話になった先輩騎士の子どもなんです。彼は三年前に戦死してしまい、昨年、あの子の母親も心臓病で亡くなくなりました。最初は親戚の家で暮らしていましたが、孤児院に預けられることになってしまい……。俺がイアンを引きとることにしました」
 
 明るく元気に振る舞うイアンに、そんな悲しい過去があったなんて……。

「もともとイアンは無邪気な子どもでしたが、母親を亡くしてからは、物分かりの良い大人びた言動をするようになりました。俺が引き取ってからは、今日みたいに泣いて駄々をこねるようなことは一度もなかったんです」

「そうだったのですね」

「貴方のことを、とても気に入ったみたいです。一体、イアンにどんな魔法をかけたんですか?」

 冗談交じりに尋ねられたので、私もふふっと笑って「企業秘密です」と答えた。

「企業秘密か。それは残念。知りたかったな」

 フランクな口調で言って、おどけたように少し肩をすくめてみせるアシュレイ。

 戦勝記念パーティで会った時は、無口で無愛想だなぁと思ったけれど、プライベートでは案外フレンドリーなひとみたい。これなら仕事もやりやすそう。

 私はほっと胸をなで下ろし、緊張を解いた。