目の前では、アシュレイがイアンの口元についた食べかすを拭きながら、お小言をいっていた。

「お前は一応、男爵家の子息になったんだから、もっと上品に食べよう」

「分かった。僕、パルミエひとくちで五枚たべられるけど、二枚にしとく」

「頼むから一枚ずつ食べなさい。喉に詰まるから」

「ラジャー!」

 ビシッと敬礼して、お小言から逃れるように駆け出すイアン。ドタドタと足音を響かせて廊下を走る姿は、どう頑張っても貴族のご子息には見えない。
 
 やれやれといった様子で、アシュレイがため息をついた。
 
「あの野生児、一ヶ月で上品になれますかね」

「ええっと……」
 
 どう答えるべきか悩む間にも、ドタドタ――ッという元気いっぱいに廊下を走り回る音が聞こえてくる。