「でもビッキーだけは違った! 好きなことは何?って聞いてくれた。ダンスの練習しようって約束した。あと、そ茶おいしいって、ありがとうって。だから僕の、イアンの先生はっ、ビッキーが、いいっ! ビッキーじゃ、なきゃ、やだぁっ!」

 両目から大粒の涙を流し、イアンがうぇぇんと大声をあげて泣き出してしまった。
 
 アシュレイが慌ててしゃがみ込み、えぐっ、えぐっとしゃくり上げるイアンの頭を撫でる。そしてこちらを振り返り、申し訳なさそうに言った。

「お断りしたばかりで心苦しいのですが、イアンがこう言っているので、引き受けて頂けないでしょうか」

「お許しを頂けるのであれば、ぜひ! 良い先生になれるよう頑張ります!」

「――ということだ。良かったな、イアン」

 さっきまで大号泣していたイアンがぴたっと泣き止み、満面の笑顔で「わぁい!」と飛び跳ねる。

 ぴょんぴょんするだけでは気持ちが収まらなかったのか、勢いよく私の腰に抱きついてきた。

 六歳児の全力タックルはそこそこの衝撃があった。受け止めきれず後ろによろけた私の背中を、アシュレイがとっさに片手で受け止め支えてくれる。