彼の隣では、イアンが私たちの顔を交互に見ながら、アシュレイの真似をして同じタイミングで『うんうん』と頷く。でも多分、話の内容は分かっていないと思う。

 すべてを聞き終えたあと、アシュレイが「そうでしたか」と呟いた。

「事情は分かりました。ですが、家庭教師については、女性ではなく男性を希望しております。過去に、その……面倒なことがありまして。せっかく来て頂いたのに、すみません」

「どうか謝らないで下さい。恐らく、紹介所の方で手違いがあったのでしょう」

 残念だけど仕方ない。口ぶりから察するに、過去の面倒事とは恐らく女性関係。

 おおかた、女性の家庭教師がアシュレイに惚れて問題でも起したのだろう。

 これほどイケメンだと、使用人を雇うのも大変そうね。

 アシュレイの苦労に想いを馳せつつ、私はすっと立ち上がった。今回は縁がなかったということで、次の仕事を探しに行きましょう。

「では、これで――」と帰りかけた私を止めたのは、意外な人物だった。