応接間に入ってきた屋敷の主人――アシュレイ・クラークは、イアンの姿を視界に捉えると「どうしてここに居るんだ?」と不思議そうな顔をした。

「ビッキー先生の面接してた!」
 
 ぴょんとソファから降り、アシュレイの元に駆け寄るイアン。

「アシュレイ、こちらビッキー。イアンの先生。ダンスが得意だから教えてくれるって。あと、ジのびょう――」

「き、昨日は助けて頂きありがとうございました!」

 私は慌てて挨拶することで、イアンの言葉をそれとなく遮った。

 イアンくん、いま完全にビッキーは痔の病気って言おうとしてたよね?
 
 あぶない、あぶない……。
 危うく誤解を生んで変な空気になるところだった。
 
 背中に冷や汗がつーっと伝う。動揺を押し隠して、私は面接用の爽やかな笑顔を浮かべ続けた。

 そんな私の顔を、アシュレイが腕組みしてじっと見つめてくる。

 ……なんでしょう。すごーく不審な目で見られているんですが?
 私、何かまずいことしちゃったでしょうかね。
 
 アシュレイが私をたっぷり時間をかけて眺めたあと、はっと何かに気付いた様子で「もしや」と口を開いた。