「お茶をお持ちしました。失礼致します」と言って入ってきたのは、朗らかそうな年配のメイドだった。

 さらにその後ろから、可愛いらしい男の子がひょこっと顔を覗かせる。

 少年は私の向いのソファに腰を下ろすと、メイドがテーブルにお茶を置くと同時に声を掛けてきた。

「そ茶です、どうぞ。口にあうと良いのですが」

 多分、粗茶の意味は分かっていないのだろう。
 おませな顔した少年がたどたどしい口調でお茶を勧めてきた。
 
 ほほ笑ましい気持ちになりながら私は再びソファに座り、「頂きます」と告げて紅茶に口をつけた。
 

「とても美味しいです。おかげさまで緊張がほぐれました。ありがとうございます」

 お礼を言うと、男の子は口をきゅっと引き結んで、照れくさそうにはにかんだ。
 
 ふわふわの淡い茶髪に大きな青い瞳。眉上で短く切りそろえられたパッツン前髪。お澄まし顔と大人びた口調が愛らしい少年だ。
 
 この子が、貴族学校に通う予定だというクラーク家のお子さんかしら?

 紹介状を見たときから不思議に思っていたのだが、たしかアシュレイは独身未婚のはず。

 救国の英雄に息子がいるという話も聞いたことがないわ。

 ……なにかワケありなのかも。

 私の勘がそう告げていた。