一方、ビクトリアが去った後の紹介所では――。

「ねぇ、もしかして、この家庭教師の案件、女性に紹介しちゃった!?」
 
「しましたけど……。えっ、駄目でした?」

「駄目よ! ほら、この備考欄見て!」

 ビクトリアを担当した職員が、先輩職員の手元にある書類をのぞき込む。

「えっと、なになに……えっ!?『女性不可』って、どうしてですか?」

「依頼人のアシュレイ・クラーク様は、こないだの戦争で活躍した騎士団長様よ。地位も名誉もあって、おまけにすこぶる美男だから、派遣された女性教師はみんな惚れしちゃって仕事にならないらしいわ」

 調べると、既に両手で収まらない人数の家庭教師が、一日と持たずクビになっている。

「この前なんか、お子様そっちのけでクラーク様に言い寄る女性教師もいたりして大変だったのよ」

「あわわわ……! あたしってば、そんなご家庭にビクトリアさんを紹介しちゃった。どどど、どうしましょう、先輩!?」

「まず一刻も早く上に報告して、クラーク様のご自宅へ謝罪に行くべきね。あと、ビクトリアさんには別案件を紹介しなきゃ」

「はい……」

 あぁ、ビクトリアさん。自分が謝罪に行くまで、どうか問題行動を起さないで下さいね、と女性職員は心の中で切に願うのだった。