そんな家族が生きるには、私がお金持ちの男性に嫁ぎ資金援助を受けるしかない。

 侯爵家存続の鍵を握る『(わたし)』が、本気で家を出ようとしていることに、両親は今さらながらに慌てているようだった。

 青い顔をした父が柄にもない猫撫で声をあげる。

「なぁ、ビクトリア。考え直してくれ。オスカー殿下の件は水に流そう。お前は優秀で美人だから、すぐにいい嫁ぎ先が見つかるさ」
 
「そうそう、機嫌を直してビクトリア。気分転換に昼からお買い物でも行きましょう? 」

 私は首を横に振った。

 途端、両親が怖い顔をして迫ってくる。
 
「お前は、育ててもらった恩を忘れるような薄情者じゃないよな?」

「とりあえず、出て行くのは止めてちょうだい。優しくて良い子のビクトリア。これからも私たちを助けてくれるわよね? ね?」

 甘やかし作戦が通用しないと分かった途端、今度は『恩』や『良い子』という単語を用いて、私の心と人情に訴えかけてくる。

 なりふり構わず娘を引き留めようとする二人の姿に、胸が痛んだ。
 
 私だって、家族を突き放すのは辛いし苦しい。
 育ててもらった恩を返せず申し訳ない気持ちもある。
 
 だが、ここで引き返したら全てが元どおりになってしまう。

 
 私が前へ進むために。
 家族のためではなく自分の人生を歩むために。

 今こそ不健全な親子関係に終止符を打つときだ。