私の真剣な言葉を父が笑い飛ばす。

「お前のような温室育ちの貴族の娘が、一体どうやって暮らしていくと言うんだ。どうせ泣いて帰って来るのがオチだろうよ。このバカ娘!」
 
「そうよ、ビクトリア、生きていくのは大変なんだから。侯爵令嬢が市井に下るだなんて前代未聞よ。なんて世間体の悪いことを考えるのかしら、この子ったら。とにかく冷静におなりなさい」

 父の言葉に、母が頷きながら同調する。
 
 どれほど無理だと言われても、私の決意は変わらなかった。

「ご安心ください。覚悟の上です。もう、ここに戻ることはありません。今まで本当にありがとうございました」

 深々と頭を下げ、足早に屋敷を出て行く。

 門を目指し歩いていると、慌てて追いかけて来た両親が『行かせないぞ』と言わんばかりに立ち塞がった。
 
 今さらながらに私の本気を悟り、まずいと思い至ったらしい。
 
 衝動的でギャンブル癖のある父は、ろくに調べもせず安易に投資に手を出し、借金を増やし続けている。
 
 見栄っ張りな母は、他の貴族夫人にマウントを取りたいがために、高額商品を買うのをやめられない。

 家督を継ぐはずの兄は無責任な放蕩息子で、「自分探しの旅に出る!」と言って家を出たきり戻らない。気ままな兄が羨ましいわ!

 たまに『お金、送って下さい』という手紙が届くから生きているとは思うが、一体どこで何してるのやら。