そっと地面に下ろされた私は、お淑やかにお辞儀する。

「今日は助けて頂き、本当にありがとうございました」

「道中、気をつけて。それでは」

 役目は終えたとばかりに、さっさと立ち去るアシュレイ。
 
 塩対応の騎士は、やはり去り際まで塩っぱかった。
 
 お姫様だっこの後だというのに、なんてあっさりした別れだろう。

 もっとこう……甘い雰囲気とまではいかなくても、『足、大丈夫ですか?』とか『お気になさらず』とか、言葉のキャッチボールを楽しんでくれても良いのでは?

 まぁ、あんな美形に抱っこされるなんて今後一生ないだろうから。良い経験になったわ。

 
 風のごとく去りゆく彼の背中を眺めていると、馬車の中から「ビクトリア、早く乗れ」という父の怒鳴り声が聞こえてきた。

 プリンセスになったかのような夢見心地が一瞬にして霧散する。

 現実に引き戻してくれてどうもありがとう――と心の中で父に皮肉を言いながら、私は御者の手を借りて馬車に乗り込んだ。

 
 屋敷までの帰り道、父は怒りが治まらないらしく、ずっと怒鳴り散らしていた。