……なのだが、現実はそんなに甘くない。
 
 見上げたアシュレイは、まさに『虚無』といった感じの顔をしていた。
 
 無口、無表情、無感情。あと無気力。
 
 白い歯キラリの王子様スマイルもなければ、気安く話しかけられる雰囲気でもない。

 たぶん『重くないですか?』と尋ねたら『そりゃあ、まぁ。そこそこは重いですね』とすっぱり言い返されそうな感じ。

 彼の全身から『命令されたからやっている』感がにじみ出ていた。
 
 塩対応って、こういうことなんだぁと私は身にしみて実感していた。
 
 くぅ、こんなイケメンに抱っこされているのに、胸キュンどころか、居心地が悪くて胃がキュンと痛むなんてぇ……。

 こんな展開……思ってたんと違う!
 
 心の中で涙を流しつつ、運ばれている間は特にすることもないので、私は大人しく荷物役に徹した。
 
 間近で見るアシュレイは想像以上に美形で、騎士なのに肌がとても綺麗だった。

 品のあるポーカーフェイス、良い香りをまとった爽やかな彼は『キラキラ』オーラが半端ない。
 
 こんなイケメン、芸能界でも滅多にお目にかかれないわ。

 日頃どんなケアしてるんだろう? とか、いい匂いがするけど何の香水かしら? とか。ひたすら興味が尽きない。

 じっと眺めていたせいか、これまで無表情だった彼が、少し気まずそうな顔で口を開いた。