「足首をひねってしまったみたいです」

「お前はどこまで鈍くさいんだ。おい、歩けるよな?」

 痛めた片足を一歩前に踏み出し体重をかけてみる。すぐさまズキンと痛みが走り私は顔を歪めた。

「なんだ、全く!……仕方ないな。じゃあそこの君、馬車まで娘を運んでくれ。これは命令だ」

 まるでホテルのベルボーイに荷物を運ばせるような言い方だ。

 いくら我が家が高位貴族家だからって、救国の英雄に上から目線で命令するなんて失礼じゃないの。

 というか、そもそも私は荷物じゃないわ!

 抗議しようとする私を遮って「おい、早くしないか。私は急いでいるんだ!」と父が怒鳴った。
 
「かしこまりました。それでは、失礼致します」

 言葉と同時に、隣に立っていたアシュレイがひょいと私をお姫様抱っこした。そして軽やかな足取りで階段を下りていく。

 これが前世のドラマか少女漫画であれば、女性がすかさず『あの重くないですか……?』と上目遣いに尋ねるべきシーンだ。

 そして相手役の男性が『いいえ全く。あなたはまるで羽のように軽いですね』(白い歯キラリ王子スマイル)と答えるのが王道展開。