アシュレイは父を見すえて、丁寧ながらも毅然と告げた。

「一歩間違えれば、大惨事になるところでした。お気をつけて下さいフェネリー侯爵閣下」
 
「娘を助けてくれたことは一応感謝しておくよ。悪いが我々は先を急いでいる。これで失礼するよ。ほらビクトリア、行くぞ」

 父が再び私の方に手を伸ばしてきた。捕まるもんかと逃げようとした途端、ぐきりと右足に痛みが走る。どうやらヒールが折れた時にくじいてしまったらしい。

 こんな足で引っ張られたら、それこそ自殺行為。今度こそ転落死バッドエンド一直線だ。

 怪我のことを告げようと口を開きかけた時、父の目の前にアシュレイが立ちはだかった。
 
 純白の騎士服をまとった広い背中が、私の視界いっぱいに広がる。

「な、何だね、君は。そこを退きなさい」

「それは出来かねます」

「はぁ?」
 
「そちらのご令嬢は足を痛めているようにお見受けします。このまま階段を引きずり下ろすのは、いかがなものかと」

「怪我だって?」

 父が面倒くさそうな顔で「そうなのか」と私に問うてくる。素直に頷くと、盛大にため息をつかれた。