まずっ――と、思うのと同時に前のめりにバランスを崩す。

 前方にあるのが平坦な床なら良かった。だが無情にも目の前にあるのは、歩道橋にも負けないほど傾斜のきつい大階段。
 
 体がふわりと浮き上がる。
 景色がやけにスローモーションで見えた。

 
 やばい、またか……。
 あぁ私ってば、結局こういう形で死ぬのか――。
 
 
 諦めの境地で死を覚悟したその時、腰に手が回され、ぐいっと後ろに引っ張り上げられた。それまで宙に浮いていた両足がしっかり地面に着地する。

 あやうく再び転落死するところだった……。

 込み上げる恐怖心とパニックで、後ろから誰かに抱きしめられた体勢のまま、私はしばし放心状態で固まった。

 
 ――私……ちゃんと生きてるんだよね……。


 バクバクと心臓が脈打つ。胸を押えてぼうっとしている私の背後から「大丈夫ですか」という男性の声が聞こえてきた。

「は、はい。ありがとう、ございます。大丈夫です」

 後ろを振り返り礼を言った私は、見覚えのある相手の姿にひっそり驚いていた。
 
 私の命の恩人は、爽やかに整えられたヘーゼルブラウンの髪と、ちょっと見ないくらい整った顔立ちの騎士。凱旋パレードで話題に上っていたアシュレイ・クラーク騎士団長だった。