「何度私に恥をかかせれば気が済むんだ、この馬鹿娘が! 用意した台本すら覚えられんのか! もういい、帰るぞ」

「ちょっ、お父様っ! そんなにグイグイ引っ張らないで下さいませ! 私、ドレスとヒールだから歩きにくいんですってば!」

「うるさい! いいから来い!」

 父が私の手首をつかみ歩き出した。

 踵の高い靴を履いているせいで足元が覚束ない上に、グイグイ力任せに引っ張られ、歩き難いことこの上ない。
 
「ぐずぐずするな――! 」
 
「ひとりで歩けますので、手を離して下さい」
 
「そう言って逃げるつもりだろう。お前のことは信用ならん」
 
 横柄な父の言葉に呆れたため息をつきながら歩いていると、ちょうど玄関ホールの下り階段にさしかかった。

 さすがにこの体勢のまま階段を下りるのは怖い。

 つかまれた手首を振り払おうとする私の意図を察したのか、父が離すまいとして思いっきり引っ張った。

 その瞬間、ハイヒールの踵がボキリと折れた。