「オスカー様。私を抱いた責任、ちゃんと取ってくださいね」

 ビクトリアに傾きかけているオスカーの心を見計らったかのように、エリザが耳元で囁いた。

 目を細めて口角をにぃっと上げる彼女は、愛らしいを通り越して恐ろしい。
 

「純潔を奪っておいて今さら捨てるなんて……そんな無責任なこと、しない方だと信じておりますわ。それにあなただって、二回も婚約破棄するのは外聞が悪いでしょう?」
 
「……っ。分かっているよ」

「ふふっ、そんなに怖い顔しないで。エリザはオスカー様がだぁいすきっ!」

 脅しめいた事を言った口で、次の瞬間には愛を囁く。

 ――この女はまさしく、悪女だ。
 
 
 すべては、あの夜。
 エリザを抱いてしまった瞬間から歯車が狂い始めた。

 ちょうどその日は、オスカーの誕生日。

 勇気を出してビクトリアにキスしようとしたのに、真顔で『婚前交渉は致しません』と拒否されたことで精神的に参っていた。

 そんな時、タイミングよくエリザが現れた。