「エリザ、頼むよ。君は将来、王室の一員として公務をしなければならない。今日以上に大変な式典だって沢山ある。これくらい堪えてくれ」

「えぇ。オスカー様、言っていたじゃないですか。『エリザが笑っていてくれれば、僕も幸せだ。仏頂面のビクトリアより、明るくて無邪気な君が好きだ』って。辛い公務なんてしたら、私、笑えなくなっちゃいますっ!」

 ああ言えば、こう言う……。
 オスカーは拳をぐっと握りしめ怒りを抑えた。


 確かにビクトリアは可愛げのない女だった。
 
 強気で堅物な性格も、美人だが圧の凄い容姿も好みじゃない。

 だいたい、何なんだあの縦ロール髪は。いくら王室の伝統的な髪型とはいえ、今の時代にあれはダサすぎる。

 それとなく『ビクトリア、違う髪型にしてみたらどうだい?』と言ってみたことがある。

 だが彼女は『王室の一員になるのですから、伝統を守らなければ』と言って、かたくなに譲らなかった。頑固で真面目すぎる女なのだ。

 オスカーは、ビクトリアのその生真面目さがずっと苦手だった。

 教養、知識、礼儀作法だって、オスカーの立つ瀬がないほど完璧。

 貴方に頼らずともやっていけますという自立した彼女の姿を見るたび、男としてのプライドが傷つけられた。