「あっ、アシュレイ! もう、おそいよぉ! 早くいかなきゃ、僕の赤いキラキラがなくなっちゃうよ~」

「待たせてごめんな。でも宝石店は逃げないから、焦らなくても大丈夫だぞ……って、聞いちゃいない」
 
 諭す間にも、イアンはダダッと駆け出してしまう。
 仕方ないワンパク怪獣だな、と苦笑するアシュレイに、ビクトリアが「おつかれさまです」とほほ笑んだ。

 長い金髪を結い上げて黒いベルベットのリボンでまとめ、淡いブラウンのドレスコートを着たビクトリア。

 外出着姿も綺麗だ、などと思って見とれていると、彼女がニコニコしながらしゃべり始めた。

「イアン、今日のおでかけをとっても楽しみにしていたんですよ。『僕もキラキラ買ってもらうんだ』って」

「今日は結婚指輪を選びにいくだけなのに……あぁ、だからあんなにはしゃいでいたんだな。まったく、ちゃっかりしている」

 子供に宝石のついた物を持たせるのは賛成しかねる。落とすかもしれないし、あまりに高価な装飾品を持たせると誘拐の危険性も高まる。

 かといって「お前には買わないぞ」と言えば、イアンはへそを曲げてしまうだろう。

「さて、どうしたものか」

「大丈夫ですよ、アシュレイ様。私、イアン用にとっておきの指輪を作ったんです」

「とっておきの指輪?」