ソファに座っていた金髪の女性がこちらを見て、緊張の面持ちで立ち上がる。

 アシュレイが「どうして、ここにいるんだ?」とイアンを見つめると、「ビッキー先生のめんせつしてた!」との答えが返ってきた。

 ぴょんとソファを降り、イアンが満面の笑みでこちらに駆け寄ってくる。

「アシュレイ、こちらビッキー。イアンの先生。ダンスがとくいだから教えてくれるって。あと、ジのびょう──」

 イアンがなにかを言いかけた時、金髪の女性が「せっ、先日は助けていただきありがとうございました!」と言い、深々と頭を下げた。

(『ジのびょう』とはなんだ? 字? それとも、持? 持病? それに『先日』とは……)

 アシュレイは腕組みして、彼女の顔をジッと見つめた。
 
 煌めく金髪に、青空のような爽やかなブルーの瞳。
 ややつり目の大きな双眸と、溌剌とした笑顔には見覚えがある。

 先日という単語を手がかりに記憶をたどること数秒、信じられない答えにたどり着いた。

「もしや、貴方は、ビクトリア・フェネリー侯爵令嬢ですか……?」