「旦那様、お静かに! 今、イアン様が家庭教師の先生とお話していらっしゃるんです」

「なぜイアンが?」

 侍女と家令の話によると、イアンが「僕、あたらしい先生、見てみたい! あっ、アシュレイにはナイショだよ!」と言って、ひょっこり侍女の後ろをついてきて、あっという間に応接室のソファに座ってしまったらしい。

 ふたりは、家庭教師が万が一にもイアンに暴言や暴力を振るうことが無いよう、すぐに止めに入れる場所で密かに様子を見守っていたらしい。

「それで、中の様子は?」

「今のところ、和やかな雰囲気でございますよ。明るく優しそうな先生で、イアン坊ちゃまも楽しそうにお話されております」

 人見知りなイアンが楽しそうに大人と会話をするとは、珍しいこともあるものだ。

 どのような女性が面接に来たのか、アシュレイも僅かに興味を抱いた。
 といっても、警戒を解くつもりは毛頭無いが……。

「イアンのワガママに付き合わせてすまなかった。あとは俺が対応するから、仕事に戻ってくれ。事情説明は手短に終わらせるから、俺の分の茶は要らないよ」

「はい、旦那様。かしこまりました」

 家令と侍女はその場を離れ、アシュレイはノックの後、応接間の扉を開いた。